遺産分割協議に期限はあるの? 相続手続きの流れと気をつけたいポイント
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平成30年、相続に関する民法の規定「相続法」が約40年ぶりに大幅改正されました。すでに順次施行され、令和元年7月には本格施行となります。
相続が発生すると、誰にどのように何の財産を分けるのかを決める必要があります。遺言書があればよいのですが、遺言書がない場合には相続対象となる全員が集まり、話し合わなくてはなりません。これを遺産分割協議といいます。しかし、いつまでに、何に気をつけて協議すればよいのか、わからない方も多いでしょう。
今回は、新たな相続法のルールを含め、遺産分割協議の期限や相続手続き全体の流れ、注意すべきポイントを仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産分割協議の期限は?
結論からいえば、遺産分割協議に期限はありません。同様に、ほかの相続人に対して協議を求める遺産分割請求権に関しても、時効はありません。
しかし、早く始めるべき理由があります。
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(1)期限付きの手続きに注意
遺産分割協議には期限がありませんが、相続によって必要となる手続きの中には、期限が設けられているものがあります。特に留意すべきものは次の3つです。
●相続放棄、限定承認の申述
相続の開始があったことを知ってから「3ヶ月以内」
●相続税の申告
相続人が死亡したことを知った日の翌日から「10ヶ月以内」
●遺留分減殺請求権
相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから「1年以内」です。また、相続開始から10年経過してしまうと、遺留分減殺請求権が消滅してしまいます。
相続の問題が発生したら、ご自身に当てはまらないかどうか、早めに確認しておきましょう。 -
(2)早期解決により回避できるトラブル
遺産分割がなされていない財産は相続人の共有となり、具体的な所有者が定まっていません。これによりさまざまなトラブルが生じる可能性が高まります。
たとえば、放置している間に当初の相続人が亡くなってしまい、さらに下の世代の相続人が事情を知らないまま受け継ぐことになり、手続きが難航するケースなどです。
また、預金口座は被相続人の死亡によって凍結され、原則として相続人による名義変更や解約払戻しなどがなければ、現金の引き出しが困難になります。預貯金の新たな名義人も、基本的に協議などによって決めなければなりません。同様に、不動産に関しても名義変更をしなければ、基本的に売却や貸し出しが難しいので注意が必要です。
他にも、相続人の誰かによる財産の隠ぺいや、不動産や株式の評価が変動するなど、多くのトラブルが発生するおそれもあります。権利関係が定まらないことで、空き家の増加、土地利用希望者の妨げになるなどの問題も広がっていることから、相続の問題を抱えている方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
2、相続手続きの流れと注意すべきポイント
死亡届の提出や葬儀などを済ませた後、相続に関する手続きを始める方も多いでしょう。
注意すべきは、次のとおりです。
- 遺言書の確認、検認
- 相続人と財産の調査
- 遺産分割協議、遺産分割協議書の作成
- 相続放棄、限定承認
- 準確定申告、相続税申告
- 遺留分減殺請求
それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。
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(1)遺言書の確認、検認
被相続人が遺言書を残していれば、基本的にはそれに従い相続します。しかし、遺言書が見つからない場合や、遺言書に一部の財産のみしか記載されていない場合などは、遺産分割協議が必要となります。
また自筆証書遺言や秘密証書遺言には、家庭裁判所の検認も必要です。戸籍謄本などの収集に時間がかかること、手続き自体に1~2ヶ月かかることなどを考慮すると、できるだけ早めに申し立てるべきでしょう。
なお、自筆証書遺言については令和2年7月以降施行される新ルールにより法務省での保管が可能となります。新ルール適用によって保管されていた場合の検認は不要です。 -
(2)相続人と財産の調査
遺産分割協議は、相続人全員で行いますので、そもそも誰が相続対象となるのかを確認しなくてはなりません。隠し子の存在や養子縁組の事実が発覚するケースも珍しくなく、後で新たな相続人がでてきた場合にはやり直しになってしまうので注意が必要です。故人の戸籍謄本などを取得し、出生時までさかのぼって親族関係をすべて確認すべきでしょう。
また、財産の種類や価値がわからなければ分割することができません。よって、財産の全容を把握するための調査が不可欠となります。特に借金の有無は、早急に確認しましょう。
調査の段階で財産目録も同時に作成しておくと、後の協議をスムーズに進めることができます。 -
(3)遺産分割協議
誰がどの財産を受け取るのかを相続人同士で話し合います。
現物そのものを分割する方法も多く用いられます。長男には家を、次男には預貯金を、三男には車をといった形で分ける方法です。
そのほか、代償分割(例:一人が不動産を相続する代わりにほかの人に金銭を与える)や、換価分割(例:株式を売却してから分割する)などの方法もあります。
遺産分割協議書は法律による作成義務はありませんが、預貯金や不動産の名義変更をするにあたり提示を求められることがほとんどです。協議後は速やかに作成しておきましょう。 -
(4)相続放棄、限定承認
相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に相続放棄か限定承認をしなければ、基本的にすべての財産を相続します。特に借金などマイナスの資産がある場合には相続人の負担となりますので慎重に判断しなくてはなりません。
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(5)準確定申告、相続税納付
被相続人が自営業者だった場合などは、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に所得税の準確定申告をおこないます。また、10ヶ月以内には相続税の申告もしなければなりません。
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(6)遺留分減殺請求
遺留分とは特定の相続人に認められた最低限の取り分です。不当な贈与や遺贈があった場合、遺言の内容が遺留分を侵害している場合などには、相続の開始及び遺贈又は贈与を知ったときから1年以内に減殺請求しましょう。権利を行使しなければご自身が受け取れる財産が少なくなってしまいます。
3、遺産分割協議の開始時期について
少しでも早く遺産分割協議を始めなければと焦る気持ちもあるでしょうが、先走って不要なトラブルにつながってはいけません。遺言書の確認や財産調査など、協議の前にやるべきことがいくつもあります。
法律上の期限があるものに留意しつつ、冷静かつ迅速に進めることを意識したいところです。
とはいえ、被相続人が亡くなった直後に遺産の話をすることはためらわれる方もいるでしょう。遺産分割協議は、四十九日の法要が終わってから始める方も多いようです。しかし、それ以前に始めて悪いということではありません。タイミングとしては、できるだけ早めに相続人と財産の調査まで済ませておき、亡くなってから1ヶ月前後を目安に着手できるとよいかもしれません。
4、遺産分割を弁護士に依頼するメリット
弁護士へ依頼する最大のメリットは、期限に配慮しながら滞りなく手続きを進められる点にあります。
遺産分割協議を含め、相続に関する手続きはほとんど同時進行でおこなう必要があり、時間や労力がかかります。役所への各種手続き、金融機関への連絡、健康保険や遺族年金の手続きなども同時に進めていかなくてはなりません。これらの手続きを一貫して弁護士に任せることで、ご自身の負担は大きく緩和されるでしょう。
遺産分割協議でもめた場合や遺留分の侵害を受けた場合などにも、法的根拠にもとづき正当に主張できます。弁護士が間に入り論理的に説明することで、スムーズな問題解決を目指したり、本来であれば請求できるものを見落としてしまい後悔するリスクも回避できたりするでしょう。
5、まとめ
今回は遺産分割協議の期限や相続手続きの流れ、注意点をお伝えしました。相続人同士の紛争は非常に多く、財産がなくても借金がある場合があります。どのようなケースでも、トラブルを回避するため早期に手続きを進めたほうがよいでしょう。
とはいえ、相続手続きは複雑で種類も多数あり、一般の方が自力でおこなうには骨が折れます。負担を軽減させるためにも、ぜひ弁護士への相談を検討してみてください。
ベリーベスト法律事務所・仙台オフィスでもご相談をお受けします。相続問題でお困りの方はご連絡ください。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています