人身事故と物損事故の違いとは? 注意するべき事故後の対応を解説

2023年04月20日
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人身事故と物損事故の違いとは? 注意するべき事故後の対応を解説

宮城県警が公表している交通事故の発生状況に関する統計資料によると、令和3年中に宮城県内で発生した交通事故の発生件数は4286件でした。そのうち交通事故の負傷者数は、重傷者と軽傷者を合わせて5182人でしたので、多くの方が交通事故によって負傷していることがわかります。

交通事故には、物損事故と人身事故の2種類がありますがどのように違うかご存じでしょうか。軽微な事故であった場合には、加害者から「物損事故にしてほしい」と言われることもあるようですが、安易に応じてしまうとさまざまなリスクが生じます。

交通事故被害者としては、物損事故と人身事故の違いをしっかりと理解して不利益を被らないようにしなければなりません。今回は、人身事故と物損事故の違いについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、人身事故と物損事故、何が違う?

交通事故は、人身事故と物損事故に分けられます。人身事故と物損事故ではどのような違いがあるのでしょうか。

  1. (1)人身事故とは

    人身事故とは、人の生命や身体に損害が生じた事故のことをいいます。交通事故によって怪我をした、後遺障害が生じた、死亡したという場合が人身事故になります。

  2. (2)物損事故とは

    物損事故とは、人の生命や身体に対する損害がなく、物にのみ損害が生じた事故のことをいいます。たとえば、自損事故で被害者がいないような事故であったり、軽微な事故で車の損傷以外に損害が生じていなかったりする場合がこれにあたります。

    なお、事故によって車にも損傷が生じ、さらに怪我をした場合には、人身事故として扱われることになります。このように人身事故と物損事故は、人の生命や身体に損害が生じたかどうかによって区別されます

  3. (3)人身事故と物損事故の違い

    人身事故と物損事故には、請求できる損害や自賠責の適用有無、損害賠償請求権の時効期間、処分内容に違いがあります。

    ① 請求することができる損害内容

    • 人身事故の場合……治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料、逸失利益など
    • 物損事故の場合……車の修理費、代車使用料、評価損など


    人身事故と物損事故では請求することができる損害の内容に大きな違いがあり、賠償額でも人身事故の方が高額になる傾向にあります。

    ② 自賠責保険の適用
    自賠責保険とは、自動車を運転する際には加入が義務付けられている強制保険です。加害者が負うべき経済的負担を補填することによって、被害者を救済することを目的としています。
    自賠責保険は、人身事故のみが補償の対象になりますので、物損事故の場合には利用することができません

    ③ 損害賠償請求権の時効期間

    • 人身事故の時効時間……被害者が損害および加害者を知ったときから5年(民法724条の2)
    • 物損事故の時効期間……被害者が損害および加害者を知ったときから3年(民法724条1号)


    ④ 行政処分
    交通事故を起こした場合には、交通事故の内容に応じて違反点数が加算されます。人身事故の場合には、必ず違反点数が加算されることになりますが、物損事故の場合には、原則として違反点数が加算されることはありません。

    ⑤ 刑事処分
    人身事故の場合には、人身事故の加害者は、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われることがあります。
    一方、物損事故の場合には、刑事処分を受けることはありません。被害者の車を損傷させていますが、器物損壊罪は故意による破壊にのみ適用される犯罪です。そのため、物損事故の場合は、加害者が器物損壊罪に問われるということもありません。

2、物損事故とした場合に被害者が注意するべき点

軽微な怪我のみだった、などの理由で、人身事故であるにもかかわらず物損事故として届け出てしまう方もいるようです。しかし、人身事故であるにもかかわらず、物損事故としてしまった場合には、さまざまなリスクがあることを知っておきましょう。

  1. (1)怪我に対する賠償を受けることができない

    物損事故と届け出たとしても、被害者が怪我を負っていた場合には、怪我の治療費や慰謝料を請求することは可能です。
    しかし、物損事故として届け出たにもかかわらず、怪我の治療費などを請求することは客観的状況と異なるため、加害者や加害者の保険会社からは「本当に事故によって生じた怪我かわからない」などの理由で、怪我に対する賠償を受けることができない可能性があります。

    たとえ事故が原因で障害が残ってしまったとしても、一切賠償を受けることができないこともあり得ますので、加害者から「物損事故扱いにしてほしい」と言われても安易に応じないようにしましょう。

  2. (2)過失割合の立証が困難になる

    停止中の車に追突したような事故であれば過失割合は明確ですが、双方動いている状況で事故が起きた場合には、被害者の側にも一定の過失割合が生じることになります。

    人身事故の場合には、事故現場の道路状況、衝突位置、ブレーキを踏んだ地点、天候や路面状況などを明らかにした、実況見分調書という書面が作成されます。過失割合に争いが生じたとしても実況見分調書を入手することによって、正確な過失割合を主張・立証していくことが可能です。

    しかし、物損事故では、簡単な内容の物件事故報告書が作成されるのみであり、実況見分調書は作成されません。そのため、物損事故として届け出てしまうと、後日、過失割合に争いが生じた場合に、その立証をすることが困難になるというリスクがあります。

3、物損事故から人身事故に変更することは可能?

物損事故として届け出てしまったとしても、後日、人身事故に変更をすることは可能です。物損事故から人身事故に切り替える際の手続きについて説明します。

  1. (1)病院から診断書を取得

    物損事故から人身事故に切り替えをするためには、被害者が怪我をしたという証拠を提出する必要があるので、病院から診断書を取得する必要があります。
    ただし、事故から日数が経過して初めて病院を受診したような場合、診断書を取得できたとしても、事故によって生じた怪我かどうかがわからず、人身事故への切り替えができない場合もあります。
    そのため、事故で痛みやしびれが生じた場合には、早めに病院に行くことが大切です

  2. (2)警察署に診断書を提出

    取得した診断書は、事故現場を管轄する警察署に提出します。いきなり警察署に行ったとしても担当者がいない場合もありますので、事前に連絡をしてから行くことをおすすめします。

  3. (3)実況見分の実施

    物損事故から人身事故に切り替える場合には、実況見分が未了の状態ですので、被害者と加害者が立ち会いのもと実況見分が行われます。事故から時間が経っていると当時の事故状況についての記憶が薄くなっていることもありますが、実況見分調書は後日の証拠となる重要な書類ですので、できる限り正確に事実を伝えるようにしましょう。

    その後、物損事故から人身事故への切り替えが完了すると、交通事故証明書の記載が「物損事故」から「人身事故」に変更されます。

  4. (4)保険会社に連絡

    物損事故から人身事故に切り替えた場合には、治療費や慰謝料などの支払いを受けることができますので、加害者の任意保険会社にその旨の連絡をしましょう。

    なお、警察に届け出たとしても、事故から日数が経ちすぎているなどの理由で、物損事故から人身事故への切り替えが認められないこともあります。その場合は、保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」を提出することで、人身事故扱いにしてもらうことも可能です。

4、交通事故トラブルを弁護士に相談するべき理由

交通事故にあった場合、通常は裁判になるわけではありません。それなのに、なぜ弁護士に相談したほうが良いのか、と思われる方も少なくないようです。最後に、交通事故にあった際、弁護士に依頼するべき理由について説明します。

  1. (1)加害者や保険会社との対応を任せることができる

    交通事故の被害にあった場合には、仕事を休んで病院に通院しなければならないなど日常生活に多大な支障が生じます。それに加えて、保険会社との間で不慣れな示談交渉をしなければならず、その負担は非常に大きなものとなるでしょう。

    そのため、少しでも負担を軽減するためにも交通事故の対応は弁護士に任せることをおすすめします。弁護士に交通事故の依頼をすれば、弁護士は被害者の代理人として保険会社との交渉を行うことができますので、被害者の方は、治療などに専念することが可能です。

  2. (2)慰謝料を増額することができる可能性がある

    交通事故の慰謝料を算定する基準には、自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)という3つの基準が存在していますが、慰謝料の金額は、次のような順番で大きくなります。

    自賠責基準 < 任意保険基準 < 裁判所基準


    つまり、裁判基準によって慰謝料を算定するのが被害者にとってもっとも有利な内容となります。

    しかし、裁判所基準は、弁護士が保険会社と交渉をする際に利用する基準であり、被害者の方が個人で交渉をしたとしても、裁判所基準により算定した慰謝料を請求することはできません。少しでも多くの慰謝料を獲得するためにも、弁護士への依頼をおすすめします。

  3. (3)適切な賠償額であるかを判断することができる

    怪我の治療が終了した段階で、保険会社から交通事故の賠償額の提示がなされます。しかし、ほとんどの方が交通事故に関する知識と経験を有していません。そのため、保険会社から提示された金額が妥当なものであるか判断することができず、不利な内容であっても示談に応じてしまう可能性があります。

    一度示談に応じてしまうと後日その内容を覆すことは困難になりますので、保険会社と示談をする前に弁護士に相談をすることをおすすめします。

5、まとめ

交通事故によって怪我をしたにもかかわらず、さまざまな理由から物損事故として届けてしまう方もいます。しかし、人身事故であるにもかかわらず、物損事故として届け出てしまうと、将来、適切な損害賠償金を受けることができないなどのリスクがありますので、注意が必要です。

交通事故の被害に遭い、その後のトラブルでお悩みの方は、対応実績が豊富なベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。

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