会社を廃業するための手続きと流れ・注意点について弁護士が解説
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令和2年5月に、仙台市がウェブ上で行った「新型コロナウイルス感染症にかかる影響調査」では、市内にある事業所の94.5%が「事業に影響が出ている」または「先行きを懸念している」と回答しています。
国や自治体は、この苦境に対してさまざまな支援策を打ち出しています。しかし後継者不足などもあり、これを機会に廃業手続きを始めようかと検討されている会社の経営者・個人事業主もいらっしゃることでしょう。
本コラムでは、廃業手続きの流れや注意点などを、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、廃業と倒産の違い
まずは、廃業と倒産の違いについて解説します。
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(1)廃業とは
「廃業」とは、理由を問わず、自らの意思で、それまで営んできた会社や個人事業を廃止(会社やお店をたたんで消滅させる)することをいいます。
つまり廃業は、経営状態が悪くないときでも行われることがあります。 -
(2)倒産との違い
これに対し、「倒産」とは、一般的に債務超過に陥って、経済的に破綻し、経済活動を継続することができなくなることを意味します。
自主的に、理由を問わず経済活動を辞める「廃業」とは異なります。
また、倒産状態にある会社は、破産などの清算型の手続きだけでなく、民事再生など再建型の手続きをとれる可能性もあります。そのため、倒産したとしても事業を継続して再起を図る会社もあり、廃業と違い必ずしも経済活動を辞めるわけではありません。
2、廃業手続きはどのような流れで進める?
廃業手続きは、会社(法人)なのか、個人事業主なのかで異なります。
具体的に流れをみていきましょう。
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(1)会社の廃業手続き
会社の廃業手続きは、「会社の解散」手続きを行ったのち、「清算」の手続きを行うことで完了します。
以下、株式会社の廃業手続きについて説明します。
1:株式会社の解散・清算人選任と登記
株式会社の場合、会社法471条に定める事由により、会社は解散します。同条3項で、株主総会の決議による解散も規定されています。
株主総会の解散決議は、株主の議決権の過半数を有する株主が出席して、議決権の3分の2以上の賛成を得なければなりません。つまり、大多数の株主が賛成しなければ会社を解散することはできないのです。
また、同時に株主総会において、今後の清算手続きを行う代表者である「清算人」を選任します。多くの場合、代表取締役や取締役がそのまま清算人になります。
株主総会で解散が決議されたときには、解散日から2週間以内に解散登記と、清算人の選任登記を法務局に申請しなければなりません。
2:解散時の決算書類の承認手続きや官報公告など
解散登記をした後、解散時の決算書類(財産目録や貸借対照表)を作成し、株主総会の承認を得る手続きを行います。また官報公告に解散公告を掲載する他、税務関係の届け出や社会保険、労働保険に関する届け出なども行います。
3:解散確定申告
解散日から2か月以内に、事業年度の始まりから解散日までの分の所得税の確定申告を行います。
4:清算と清算結了時の決算報告書の承認手続き
清算人は会社の財産を整理し、残余財産があれば、株主に対して分配して清算結了となります。また、清算時までの決算報告書を作成して、株主総会の承認を受けます。
なお、会社の財産を整理したところ、債務超過となっている場合には、後述のとおり、裁判所の監督のもと特別清算や破産手続きを行います。
5:清算結了登記・清算確定申告・清算結了届の提出
株主総会の承認から2週間以内に、法務局に清算結了登記を申請します。また、残余財産確定日から1か月以内に、税務署に清算日までの確定申告を行います。
最後に、税務署や自治体に清算結了届を提出して、廃業手続きは終了です。 -
(2)個人事業主の廃業手続き
個人事業主が廃業手続きを行う場合は、廃業をした日から1か月以内に、税務署や都道府県税事務所へ「廃業届」を提出することによって、基本的には終了です。
会社の廃業と異なり、法律にのっとった清算手続きをする必要はありませんが、個人事業主の廃業であっても、資産・負債を整理したほうがよいでしょう。債務超過に陥っていた場合は、破産も視野にいれ、弁護士にご相談ください。
その他、個人事業主の廃業に際し、下記の届け出が必要になるケースもあります。- 消費税課税事業者になっているときには「事業廃止届出書」
- 従業員などへの給与の支払いがあるときには「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」
- 青色申告者であれば「所得税の青色申告の取りやめ届出書」
- 予定納税をしており納税額が多すぎる場合は「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」
3、廃業手続きにおける注意点とは
廃業手続きにおいては、次のような点に注意を払う必要があります。
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(1)債務超過などがある場合
廃業を決めたものの、債務超過や清算を遂行できない事情が発覚した場合や、手続きを進める上でそれらの事実が発覚した場合は、「特別清算」に移行し廃業手続きを進めることになります。
ここまでご説明してきた清算方法は、「通常清算」といいます。一方、「特別清算」とは清算手続きに関して、裁判所の監督を受けながら進める清算のことをいいます。
特別清算に移行したということは、会社が保有している財産や未回収の売掛債権を回収したとしても、債務を完済することが難しい可能性があるということです。状況によっては、廃業手続きではなく、破産手続きに移行することもあるでしょう。
どのように廃業手続きを進めるかは、会社の経営状況を把握した上で、慎重に選択しなければなりません。
また、会社法653条は、清算人が、清算手続き中、悪意や重大な過失によって、第三者に損害を与えた場合、当該第三者に対して、損害を賠償する責任を負う旨規定しています。
たとえば、清算人が、会社の財産を整理したところ、債務超過であったにもかかわらず、通常清算の手続きのまま廃業手続きを進めてしまった場合、債務の返済がされなかった取引先などから損害賠償を請求されるおそれがあります。 -
(2)代表者の個人資産に影響が及ぶ可能性がある
会社と代表者は別人格であり、代表者は基本的に会社の借金を個人的に返済する義務はありません。
しかし実際は、会社の債務について代表者が連帯保証人になっていることも少なくありません。廃業後、返済できない借金が会社に残っている場合、結果として代表者個人に請求がいき、代表者の個人資産が強制執行されるおそれがあるため注意が必要です。 -
(3)従業員への対応
廃業に伴い従業員を解雇する場合には、原則として解雇日の30日前に解雇予告を行う必要があります。30日前に解雇予告ができないときには、解雇予告手当として、30日に足りなかった日数分の給与を支払わなければなりません。
従業員の生活や、会社の残務処理などへの影響を最小限にとどめるためにも、従業員に廃業を伝える時期を適切に選び、丁寧に説明するといった対応が必要になるでしょう。
4、廃業を考え始めたら弁護士に相談を
「事業の先行きが不透明だから廃業するしかない」「後継者がいないので廃業するしかない」など、ご自身だけで考えていると、他の選択肢があることに気が付きにくいこともあります。
そのため、廃業を考え始めたら弁護士に相談し、客観的・専門的な意見を聞いた上で、本当に廃業しか手段がないのか、今後どうすべきかを、冷静に判断することがおすすめです。
たとえば、会社の経営状態が思わしくなく、代表者が会社の借金の連帯保証人になっているような場合でも、廃業ではなくM&A(企業の合併・買収)という方法で、会社だけでなく個人の資産も守ることができる可能性があります。
後継者問題がある場合は、廃業せず従業員や第三者に事業を承継する、という方法も検討してみましょう。ご自身はもちろんのこと、従業員や取引先にとってもメリットが多い選択肢になる可能性があります。
ご自身だけで進めるにはハードルが高いことも、弁護士に依頼すれば適切なアドバイスを受けられるだけではなく、手続きの一切を依頼することができるでしょう。
また、廃業を決めた場合、誤った判断で廃業手続きを進めてしまえば、後々大きなトラブルになるリスクもあります。事前に、弁護士に相談することで、会社や個人事業の現状に適した廃業手続きを進めることができるので安心です。
5、まとめ
会社や個人事業の廃業は、代表者の方はもちろんのこと、従業員や取引先の人生にも大きな影響を与えるので慎重に進めなければいけません。廃業手続きは煩雑であることに加え、廃業に伴いトラブルが生じる可能性もあるので、企業法務に詳しい弁護士へ依頼するのが得策といえるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスには、企業法務の知見が豊富な弁護士が在籍しています。ご相談者さまのお気持ちに寄り添いながら全力でサポートしますので、廃業を検討されている代表者の方や個人事業主の方は、おひとりで悩むことなく、まずはご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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