諭旨解雇と諭旨退職の違いとは|諭旨解雇の適切な方法や手続きなど

2024年09月26日
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諭旨解雇と諭旨退職の違いとは|諭旨解雇の適切な方法や手続きなど

宮城労働局が公表している2022年度の個別労働紛争解決制度の施行状況によると、民事上の個別労働紛争の相談内容では、自己都合退職が700件(12.0%)、解雇が519件(8.9%)、退職勧奨が385件(6.6%)、懲戒処分が94件(1.6%)となっており、解雇・退職に関するトラブルが多いことがわかります。

職場内に問題社員がいると、他の従業員のモチベーションの低下にもつながりかねないため、何らかの対処を検討する会社も少なくありません。しかし、いきなり懲戒解雇などをすると無効になるリスクもありますので、状況によっては諭旨解雇や諭旨退職などを検討する必要があります。

今回は、諭旨解雇と諭旨退職の違いや諭旨解雇の適切な方法・手続きについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、諭旨解雇と諭旨退職の違いとは

諭旨解雇および諭旨退職とはどのような処分になるのでしょうか。以下では、それぞれの処分の内容と相違点を説明します。

  1. (1)そもそも諭旨解雇とは

    諭旨解雇とは、会社が労働者に対して、退職届の提出を勧告し、労働者からの退職届の提出を受けたうえで、解雇する処分をいいます。諭旨解雇は、懲戒処分として行われるものになりますので、諭旨解雇をするには、労働者側に企業秩序違反などの懲戒事由に該当する行為があったことが必要です。

    このような諭旨解雇は、懲戒処分のなかでも懲戒解雇の次に重い処分になります。

  2. (2)諭旨解雇と諭旨退職の違い

    会社によっては、「諭旨解雇」ではなく「諭旨退職」という懲戒処分が定められていることがあります。諭旨退職とは、会社が労働者に対して、退職届の提出を勧告し、労働者からの退職届の提出を受けたうえで、退職させる処分をいいます。

    いずれも懲戒処分として行われるという点では共通しますが、諭旨解雇が「解雇扱い」であるのに対して、諭旨退職が「退職扱い」になりますので、諭旨退職の方が若干軽い処分といえるでしょう。

    また、諭旨退職は、退職扱いになりますので、諭旨解雇の場合に必要になる解雇予告や解雇予告手当の支払いも必要ありません。

    いずれにしても、懲戒処分として強制的に行っているのは諭旨の部分で、その後の結果については労働者も受け入れて応じており、厳密に解雇の有効無効の問題にはならないところがあります。

2、懲戒解雇やその他手続きとの違い

労働者を辞めさせる方法には、諭旨解雇・諭旨退職以外にもさまざまな方法があります。以下では、それぞれの内容と諭旨解雇・諭旨退職との違いについて説明します。

  1. (1)懲戒解雇

    懲戒解雇とは、労働者による重大な企業秩序違反があった場合に、会社側が労働者との労働契約を一方的に解約する処分をいいます。懲戒解雇は、懲戒処分のなかでも最も重い処分になります

    諭旨解雇(諭旨退職)は、労働者からの退職届の提出を受けて行う処分であるのに対して、懲戒処分は、労働者の意向にかかわらず会社側が一方的に行うことができる処分であるという違いがあります。

    また、諭旨解雇であれば、通常どおりの退職金が支払われることが多いですが、懲戒解雇では、退職金の全部または一部が不支給になることもあります。

  2. (2)普通解雇

    普通解雇とは、労働者の労働契約上の債務不履行を理由として、解雇することをいいます。

    たとえば、以下のような理由による解雇が普通解雇にあたります。

    • 能力不足、成績不良、適格性の欠如
    • 職務懈怠、勤怠不良
    • 業務命令違反
    • 健康状態の悪化による労働能力の低下


    諭旨解雇(諭旨退職)は、制裁として行われる懲戒処分になりますので、普通解雇とは性質が大きく異なります。

  3. (3)整理解雇

    整理解雇とは、不況や経営不振などの理由で人員整理のために行われる解雇をいいます。
    諭旨解雇(諭旨退職)は、処分を受ける労働者に企業秩序違反などの原因があるのに対して、整理解雇は、労働者には一切非がない状況で会社側の一方的な都合により行われるという違いがあります。

    そのため、整理解雇の有効性は、他の解雇に比べて厳格に判断されることになります。

  4. (4)退職勧奨

    退職勧奨とは、会社側が労働者に対して退職するよう勧めることをいいます。会社からの退職勧奨に応じて、労働者が退職届を提出すれば、退職となります。

    退職勧奨の基本的な流れは、諭旨退職とほとんど変わりませんが、制裁として行われる懲戒処分とは性質が異なります。退職勧奨は、あくまでも退職を勧めることしかできず、退職を強制させるような効果まではありません

3、諭旨解雇(諭旨退職)を行う場合の適切な方法・手続き

会社側が労働者に対して、諭旨解雇(諭旨退職)を行う場合には、以下のような方法・手続きにより行います。

  1. (1)労働者の問題行為の調査

    労働者を諭旨解雇するには、その前提として、労働者が懲戒事由に該当するような企業秩序違反行為をしたことが必要になります。十分な調査をすることなく諭旨解雇をしてしまうと、懲戒権の濫用として、諭旨解雇が無効と判断される可能性もあります。

    そのため、対象となる労働者からのヒアリング、周囲の同僚や上司からのヒアリングなどを行い、問題行動の有無を明らかにしておくことが重要です。

  2. (2)懲戒事由該当性の検討

    労働者に企業秩序違反行為があったことが確認できたら、次は、懲戒事由の該当性を検討します。懲戒処分は、会社が自由に行うことができるものでななく、就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類が規定されていて初めて行うことができます。

    そのため、労働者による企業秩序違反行為が就業規則のどの懲戒事由に該当するのかを明確にしておかなければなりません。

  3. (3)労働者に弁明の機会を付与

    弁明の機会とは、労働者本人の言い分を聞く機会のことをいいます。諭旨解雇は、労働者との労働契約を終了させるという処分になりますので、適正手続きの観点から、弁明の機会を与えることが求められています。

    弁明の機会を与えずに諭旨解雇をしてしまうと、適正手続き違反を理由に、諭旨解雇が無効になるリスクもありますので注意が必要です。

  4. (4)懲戒処分の決定・通知

    事前の調査結果および労働者からの弁明を踏まえて、最終的な処分を決定します。

    諭旨解雇は、懲戒解雇の次に重い処分になりますので、諭旨解雇を選択するのであれば、それ相応の違反行為があったといえなければなりません。また、軽微な違反行為に対して、いきなり諭旨解雇を選択すると懲戒権濫用として無効になるリスクもありますので注意が必要です。
    また、労働者が応じないと結局は強制的な解雇という手段を選んでいく必要が出てくるため、懲戒権として行うのか普通解雇や整理解雇として行う方が有効になりやすいのかは事前によく検討した方が良いです

    懲戒処分として諭旨解雇を選択した場合には、退職届の提出期限を記載した照会処分通知書を作成し、労働者に交付します。

  5. (5)各種事務手続きの処理

    諭旨解雇の通知を受けた労働者が期限内に退職届の提出をすれば、解雇により労働契約が終了となります。労働契約終了に伴い、会社側では以下のような事務処理が必要になりますので、忘れずに対応しましょう。

    • ハローワークに離職証明書の提出
    • 労働者に離職票の交付
    • 社会保険の脱退手続き
    • 源泉徴収票の交付

4、労働者が諭旨解雇(諭旨退職)を拒否したら?

労働者が諭旨解雇(諭旨退職)を拒否したらどのように対処したらよいのでしょうか。

  1. (1)懲戒解雇を行う

    諭旨解雇や諭旨退職は、懲戒解雇に該当する事由があるものの、労働者の反省などを踏まえて恩情として選択される処分です。そのため、労働者が諭旨解雇の通知を受け取ったにもかかわらず、期限内に退職届を提出しないような場合には、次の段階として懲戒解雇を検討する必要があります。

    懲戒解雇は、懲戒処分の中でももっとも重い処分になりますので、懲戒解雇の有効性は厳格に判断されます。そのため、諭旨解雇をする際には、将来懲戒解雇になることも想定した上で、しっかりと事実関係を調査し、証拠を集めておくことが大切です

    退職させたいという目的にどのような手段が必要なのかという観点から考えていくと、そもそも懲戒手続を用いるべきなのかも十分に検討された方が良いです。

  2. (2)不当解雇の争いに備えて弁護士に相談する

    懲戒解雇がなされると、処分に不満を抱いた労働者から不当解雇であるとして争われる可能性もあります。労働者から不当解雇を争われてしまうと、交渉・労働審判・裁判などに対応しなければなりませんので、会社としては大きな負担となります。そのため、不当解雇の争いに備えて弁護士に相談することをおすすめします

    ① 手段の実効性を判断してくれる
    懲戒処分や解雇の手段には、さまざまな種類がありますので、労働者の企業秩序違反行為の内容・性質に応じて適切な処分を選択する必要があります。

    労働者に対して懲戒処分や解雇を行う前に弁護士に相談すれば、選択しようとしている処分が適切なものであるかどうかを判断できるため、懲戒権濫用となるリスクを最小限に抑えることができます。

    ② 労働者との対応を任せることができる
    労働者の側から不当解雇の主張が出た場合、本業と同時に労働者の対応もしなければならないのは大きな負担となります。

    弁護士であれば、会社側の代理人として労働者との対応を担当することができますので、会社側の負担を大幅に軽減することができます。労働者から労働審判も申立てや訴訟提起があっても対応可能ですので、安心して任せることができます。

5、まとめ

諭旨解雇(諭旨退職)は、懲戒解雇に次いで2番目に重い懲戒処分になりますので、その有効性は、厳しく判断されることになります。問題行動を繰り返す社員がいたとしても、ただちに諭旨解雇とするのは、懲戒権濫用にあたるリスクもありますので、慎重に対応しなければなりません。

弁護士に相談をすれば、具体的な状況を踏まえて、処分の選択について最適なアドバイスを得ることができます。不当な懲戒処分にあたるリスクを最小限に抑えることができるでしょう。問題社員への諭旨解雇処分や諭旨退職処分を検討されている企業担当者の方は、まずはベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでご相談ください。

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